この状況などまるで視界に収めていないかのようなマイペースな言葉は陽気ささえも孕んでいて。
声音も弾んでいれば、こちらに近づいて来る足取りまでステップを踏みそうな程軽やかで躊躇いがない。
こちらの警戒の境界さえお構いなしに踏み込んだ女はとうとう自己紹介まで口にして、そんな間の抜けた時間に張りつめていた糸が持ちこたえられる筈なくプツリ…。
掴んでいた胸ぐらを離すと少女が近づききる前に背を向け歩み始める。
そんな背後からクスクス笑い混じりに『待ってよ』なんて楽しげな声音を響かせてくるから癇に障る。
鬱陶しいと露骨な舌打ちを響かせたタイミング。
「好きなんだけど…」
再び凛と響いた声音のキチガイな告白。
何度それを向けらようが沸くような心なんぞ持ち合わせちゃいない。
自惚れでは無いがどうやら一般的に女の意識を引きやすい容姿であるらしい俺には、こう言った響きは度々向けられていた。
何を見て、何を思って好きだなんて思ったのか。
所詮上っ面の恋心を掲げていた女達は俺の態度にあっさり去っていく。
こいつもまた然りだろ。



