場違いすぎて意識が引かれた。
自分に向かっての言葉だとはまるで認識していなかったけれど、こんな真夜中の人っ気のない公園で、更に言えば血なまぐさい乱闘を捉えての中で、どんなキチガイな精神でその告白は成されたのかと。
だから拳は振り上げたまま、相手がヒッと声を漏らすのを耳に掠めながら振り返りその姿を収めたのだ。
夜中に出歩く様な素行の悪さは一切感じる事のない少女の姿。
長い黒髪を風に遊ばせて、普通であるなら誰しもが関りを避ける様な場面を物ともせず見つめ抜いて、口元には弧まで携えている。
その視線は揺るぐことなくまっすくに俺の双眸と対峙して、ここでようやく先程の言葉が自分に向けてものなのだと理解が及んだ。
及んだけれど……。
頭大丈夫か?こいつ……。
この状況見えてるのか?
俺今人を半殺しに近い状態にしてた真っ最中だったんだぞ?
今だってまだ胸座を掴み、持ちあげている拳を振り下ろそうかと本気で迷っている。
何も見なかった、聞かなかった事にして今までの血なまぐさい時間に意識を戻そうかと、ギュッと拳を握り直し冷徹なまでの視線を相手の男にと戻したのに。
「ねえねえ、私ね、ハル。陽香(ハルカ)って言うんだけどハルって呼んで。歳はね、18歳」
「…………」
ダメだ、さすがに気が削がれた。



