お互いに何とも言えない感情に苛まれて口を閉ざし、無言の間に木のざわめきばかりが大きく耳に入り込む。
そんな沈黙を先に破ったのは、
「……今も泣く程……いい女だった?」
不意に向けられた問いには静かに視線だけで玄を一瞥してから墓に視線を戻す。
初めて涙について切りこまれたかと感傷に浸り、同時に問われた言葉についてハルの印象を振り返る。
良い女だったかって?
……冗談、
「鬱陶しくて目ざわりで………最後まで嘘つきな女だったよ」
そう吐き捨てれば横で『はぁっ?』と怪訝な反応を示した玄がいて、それがなんとなくハルの不満の響きの様に感じて小さく噴き出してしまう。
だって、本当なんだ。
長々と親の馴れ初めなんか聞きたくねえだろうから語らないけどな。
覚えてねえって言うのなら、覚えてる俺だけがハルの記憶も存在も独占してやろうじゃないか。
なあ?それだけで満足しろよ。
俺だけがお前を今も生かしてやる。
俺だけの……ハル。
「今日も大っ嫌いだよ……ハル」
だから気を惹く様にこれからもずっと俺に付きまとって、この日だけでも記憶の逢瀬の浸らせてくれ。
『今日も好きよ、………玄斗』
【END】



