かといって、今の現に不満があるわけでも寂しいわけでもない。
何の縁か、再婚してその女との間に3人の子供も生まれて。
玄と兄弟の関係は良好、義母となった彼女も気が良くて玄にも分け隔てなく情を注いで。
満たされているといっていい現。
それでもやはり、この日ばかりは現より夢の中の存在に心が占められ恋しくなる。
まるでトコトコと背後についてくる気配を感じる様な。
気を惹く様に他愛のない言葉を向けられている気がする。
振り返れば凛とした姿で微笑みかけて、
『今日も好きよ、玄斗、』
そんな声が響きそうだと………毎年毎年思って涙する。
「お前……いつまで付きまとう気だよ」
手を合わせていた墓前の前。
静かにその手をポケットに戻すと、呆れたような響きで詰ってしまう。
逆にそんな俺を呆れたような横目で捉える玄が小さく息を吐くと、
「懐かれるのが好きな癖に」
「………お前、ハルに似てるな」
「顔は100%親父似だけどな」
「性格も殆ど俺寄りだろ?」
「知らねぇよ。……俺、…記憶に残ってねえし」
そんな刹那にお互いに絶妙な物悲しさがふわりと抜ける。
俺としては、あれだけ少しでも自分を記憶させようと名を呼んでいたハルの声も温もりも玄の記憶には残っていないのかと言う、ハルに対しての同情的な物悲しさと。
玄としては何も記憶できていないのに墓前にいるという子供としての後ろめたさだろうか。



