「____い、おいっ、親父、」
「…………玄…か、」
「んなとこでうたた寝してんなよ。風邪引くぞ」
不意に現実に引き戻された感覚にしばらくは頭がついて行かず、それでもぼんやりと視界に入り込む呆れ顔の玄の姿には徐々に意識の回復。
のっそりと体を起こせばいつの間にかソファで眠ってしまっていたらしく体が気怠い。
今は……いつだっけ?
「玄……お前いくつだ?」
「はっ?ボケるには早くね?男盛りな25だけど?」
「………玄、」
「あっ?」
「……ハル、」
「……」
「ハル……」
「………はぁぁ、何の夢見てたかはその顔で充分に分かってたけどな」
そう言うなり俺に向かって洗濯物中からタオルを放り投げてきた玄が、トントン自分の頬を突いて何かを示してくる。
それに促され自分の頬に触れれば生暖かい感触がヌルリと指先に広がった。
「ほら、顔拭いてさっさと墓参りに出かけるぞ」
「ん……」
毎度の事だと、零した涙に突っ込みなど入れてはこない。
そう、毎年毎年の事だ。
ハルの命日には決まってこの夢を見やすくて、決まって涙をこぼして起きる自分がいる。
そして、まだその余韻に浸っていたいとさっきの様に『ハル』と名を呼び夢と現と行き来してしまう。
どんなに足掻こうと現(うつつ)が勝るのは変えられぬのに。



