華奢な手指には歪に歪みのある鉄パイプを握る姿は何て不似合いな。
今ほど自分が成した行動に意識が追いつかず混乱状態であったのだろう。
それでもハッと我に返った様にその瞳を揺らすと、
「玄斗に何するのよっ!馬鹿っ!!」
「っ……馬鹿は…お前だ!馬鹿野郎っ!!」
本当に…大馬鹿野郎が。
久しぶりに自分の大声が耳を劈く。
反射的に動きを見せていた身体はハルの細い手首を掴むと駆け出していた。
そんな瞬間にハルが持っていたパイプを落としたらしく、鈍い金属音が地面で弾かれカラカラと転がる音が遠ざかりながら耳に入り混んで。
血が滾る。
逆上せて、焦って、目が回って……よく分からぬ興奮と高揚と。
心を震わすこの感覚が歓喜か畏怖かさえ区別がつかない。
ただ…『ハルだ』と掴んだ感触や熱に焦りと興奮の渦。
呼吸のままならなさすら忘れ、休む事もせずに駆け込んだのは自分が住処としている安アパートだ。
隣の住人なんて久しく見てない。
むしろ人がまともに住んでいるのか。
それでもそこが唯一の自分の城で、誰をも介入させなかったテリトリー。
でも、
それも今この瞬間までの事。



