俺の世界に不要で不似合いな綺麗さ。
うっかりその未知の甘さに焦がれて手を伸ばしてみたけれど危険予測に素早く引いた。
この甘さは危険。
きっと、馴染みのない感覚や感情に惑わされ更には依存して身を滅ぼしそうな。
下手な薬よりも恐ろしい依存。
不変でいい。
血に塗れ、衝動や痛みによって自分を肯定出来る今までの興奮で十分だ。
「玄斗、」
「……不快だ」
そんな一言が最後。
情なく音を響かせ、もう興味は削がれたと背を向ける。
名残も躊躇いもなく一歩二歩…。
いつもであるなら懐っこく聴覚を擽る靴音は……無音。
自分が歩む程その気配は遠ざかって、気がつけば俺一人。
振り返っても捉えるのは自分の足元から伸びた影ばかり。
吹く風にサワサワと木々が揺れ、その音が鮮明なほど一人なのだと孤独を感じる。
それで良かった。
それが良かった。
一人で良かった。
一人が良かった。
それで良いんだ……。



