そう言えば……、
「っ……玄斗?」
「……………お前……いい匂いだな」
毎日付きまとわれてはいたけれどこんな風に近くに距離を詰めたのは初めてで、触れて確かめてとしてしまえば尽きぬ疑問の解消だと、頬に這わせていた手を頭に回し引き寄せ肩に頭を預ける様に匂いの確認。
ふわりと香ったのはシャンプーの匂いなんだろうか?
清潔な柔らかい匂い。
温かい、柔らかい。
「玄斗……今日はどうしたの?なんか……オオカミに懐かれてる気分なんだけど」
フフッと耳の近くでコロコロと転がるような声音には何でかジワリと体の内が熱を持って高揚する。
いつもの平然とした口調と声音であるのに……気づいてしまう。
知ってたか?
こうして身を近づけてしまえば言葉や態度よりも素直に心臓が動揺を教えてくるって。
今までも……もしかしたらそうだったのか?
どこまでも強気で、凛とした笑みの内側はこんな風に動揺に満ちた動悸に苛まれていた?
変だな。
どうかしてるんだな俺……。
喧嘩のしずぎで、殴られ所が悪くてねじが飛んでるのか…。
「…………ハル、」
「……ん?」
ああ、今のその声は……余裕の不完全。
それを肯定するように伝わる心音も熱もどんどんと高まって、いつも白い頬はほのかに薄紅に染まり始めている。
どうか……してるんだ…、
「……綺麗だな、」
「っ………」
「…………ハルは………綺麗だ」
俺とは違って……な。



