『傍にいさせて』


それを許可した覚えなんてない。

受け入れる様に愛想良しを見せたわけでもなければ、むしろ邪険に存在を無視した。

それなのにだ。

毎夜毎夜、気が付けばこの姿の気配に悩まされる。

音もなく気が付けばすぐ近くで俺を見つめて微笑む姿。

それが普通であるなら目を背けたくなる生々しい流血塗れの瞬間にもだ。

血の匂いに興奮を煽られ、薬で飛ぶ感覚に近い恍惚具合。

研ぎ澄まされた興奮の最中にほんの一滴冷静の滴を落しにくるようにその気配に気づかされる。

その瞬間にするすると滾っていた血や熱は意に反してするすると引いてしまって、今まで興奮を煽っていた血の匂いすら嗅覚を鈍く刺激する不快なものへと変わってしまう。

萎えた…。

そう感じた瞬間にようやくその時だと言わんばかりにしなやかな体を軽快に動かし近づいてくる。

長い黒髪を風に遊ばせ、艶やかな口元には綺麗な半円。

そうして、決まって……

「今日も好きよ、玄斗、」

凛とした声音で挨拶の様な好意を告げてくるのだ。

名前なんてうっかり教えるんじゃなかった。

あんまりにも鬱陶しく、言わなきゃ永遠に追いかけてきそうだったから教えてしまったけれど。

最初は……まるで相手になどせず、その内飽きるだろうと無言で放っておいた。

俺は全く言葉を返さないと言うのに何の気遅れも見せない女は思いつくままに言葉を向けてくる。