相手にする時間ももったいないので、視線をさっきまで見ていた“彼”に合わせる。

交差点の向こう側にいる、その“彼”は、見るからに、


遊んでそうな、

軽薄そうな、

特定の彼女もいなくて、

誠実さの欠片もなさそうな……


まあ、最低っぷりをそのまま具現化したようなヒトだった。

30分程観てたけど、3人ほどの女の人に次々に声をかけられてて、

しかも全員知り合いっぽかったし、もれなくみんなにキスしてた。

ちょっと濃いめのヤツ。


ぅああああ~っ!

最っ低!

誰にでもキスって…、

しかも、こんな公衆の面前でキスって…


――外人か!


ココロの中で叫んだ。

そして、思った。


――“彼”だったら、大丈夫かも知れない……


ゴクリ……

私は、生唾を飲み込む。

大きく深呼吸して、覚悟を決める。


――よし!“彼”がいい!!あの人に決めた!


信号が青に変わった瞬間、

私は交差点の向こう側を目指して、全速力で走りだした。