剣菱の現当主が、本家を乗っ取られるような、そんな悪手を取るとは思えない。
うちの性悪ジジイが太刀打ちできない相手だぞ?
この一連の動きは、“剣菱麗華”の主導以外で、できるわけがない。
「“狩野”でわかるのはそこまで。この先は、どうにも調べようがなかった」
剣菱麗華しかできない。
狩野の存在を消し、
わざわざ限りなく遠縁の優香を引っ張り出してまで、跡取りをすげ替えた。
でも、なぜだ?
花美という直系の跡取りがいたのにもかかわらず。
なぜ、わざわざそんな、面倒なことをする?
「…4年前、剣菱で何があった?優華ちゃん」
ふと、ジジイの言葉を思い出した。
――なんぞ…知らんかったか…?
ああ、知らなかった。
だって、そうだろ。
そもそも、会ったことがなかったんだ。
ガキの頃から、連れまわされたパーティーや懇親会…
一度として、正真正銘の剣菱の姫を…
“花美”を、公式の場で見たことがない。
だから、おそらく誰もが、今でもそう思ってるはずだ。
ジジイに、教えられる前のオレのように、
「剣菱の姫は、優香だと思ってた…」
オレの呟きに、成久が確信したように、優華をたたみかける。
「なんで、身代わりなんかしてるんだよ、優香ちゃんっ…」
「……でも、縁談は花美に舞い込んだ…」
ふっ…と、
今までの厳しい表情が嘘のように、優香が笑った。
多分…
笑ったと思う。
あっという間に、深くうなだれて、今はもう顔が見えない。
そして数秒後、
再び、成久とオレを真正面に見据えた優華の表情は、妙にスッキリしたものだった。
何かを決心したような…
それでいて、大切な何かを諦めたような、そんな顔。
思わず、成久を見た。

