“威厳”というものは、一朝一夕で身につくものじゃない。
その発言の声色、抑揚だけでなく、目線や態度、
空気……
――さすがは、剣菱…
あの成久が反論も何もできないまま、今度は深いため息をして、椅子を元に戻した。
その仕草に成久が小声を紛れこませる。
「…俺が話す。いいか?佐々…」
“ああ”
そう、目で合図した。
――狩野優華…
どういうことだ?
ここは、優香をあおった成久に任せたほうがいい。
痛いほどの緊張と静寂を、成久が破る。
「花美ちゃんが“剣菱”から籍を抜いて、母方の“霧里の”性に変わったのは中学に入る直前。その時、花美ちゃんと入れ替わるようにして、剣菱の本家に養子に入った子がいる」
「……」
「優香ちゃんのことだよね?」
優華は表情も変えず、黙って聞いている。
「そもそも剣菱の分家は極端に少ない。しかも、家系を追えるのは、近代まで残った分家のたった1つ。
その最後の女当主が他家に嫁いだのが昭和の初めだ。その時点で剣菱の分家筋は全部消滅してる。
それから数代、婚姻で性を変え、剣菱の血を引いている事すら忘れられていた子が、最期に嫁いだ家が“狩野”だ」
そう言って、成久がオレを見た。
まあ、ガキの頃から跡取りって事で、ジジイにいろんな集まりに連れまわされてるからな。
「狩野は…知ってる。でも、最近は…見ねぇな」
優華はゆっくりと腕を組み、わざとらしく考えてみせた。
そして、蔑むように笑いながら、あらかじめ決めていただろう、返事をする。
「私が直系の花美を追い出して、本家を乗っ取っただけでしょう?」
何が疑問だとでも言うように、でも…
「はた目にはそう見えるけど…」
そうじゃない…

