「…チッ……」


――逃げてんじゃねぇよ……


唇に滲んだ血を舌で舐めながら、

強引に花美の腕をつかんで、再びオレの胸に包み込む。


「イヤッ…!離してっ…やあ…!! ……私に触んないでっ!!」


往生際く花美が暴れるけど、もともと大した力じゃないのに、キスの余韻でふらついてて、

無駄な努力もいいとこだ。

抵抗ごと抱きしめた。


ギュウッ……


ほんの少し力を込めただけ。

それなのに、花美はあっけなく自由を失って、


「……ん、んぅ」


苦しげな声を漏らしながら、オレの腕の中でカラダを硬直させた。

うつむいたまま、花美は何度も何度も浅い呼吸を繰り返す。

しだいに落ち着いていく呼吸に……

それでもカラダは緊張させたまま、決してオレに寄り添わない。


「すう……」


ふいに、花美が大きく深呼吸をしたかと思うと、

やけに冷静な声で、花美がポツリとつぶやいた。


「……佐々くんとは、もう会わない」


予想通りの展開に、心底ムカつく。

右手で花美の顎に指をそえると、


グイッ!!


いっきに引き上げた。


「……勝手に終わらせてんじゃねえぞ?こっちは今がピークで盛りあがってんだからよっ」

「……」


オレを見つめる花美の瞳は、吸い込まれそうなほどキレイなくせに、

まるでガラス球がはまってるみたいに、その目は何も語りかけてこない。


――……やっぱ、遅かったか……


そう、確信する。

髪や服装を整えるように、器用に感情を整えやがった。


「……Hしてくれるって約束だった。しないんだったら、佐々くんと会う理由ないじゃん?」

「セックスしたらオレのもんになんのか?ウソつけ。ヤったらそれこそ、もうオレと会う気なんかねぇくせに」

「約束が違……」


ツゥ…

…と、言葉をさえぎるように、親指で花美の唇をなぞると、

さっきのキスで、まだ少し濡れていた。


ゾクッ……


オレの中に、湧き上がる劣情。

吸い寄せられるように、顔を近づける……

…でも……

キスは、出来なかった。