探したんじゃないよ?

もともと、投げ捨ててなんかない。

投げ捨てた“フリ”をしただけ。

こっちだって、昼間はだまされたんだもん。

これで、おあいこだ、チャラにしてあげる!


こんな簡単なブラフに引っかかるなんて、

藤堂さんってば、チョロ~イ。


私だって、なまじヤバイ目に合ってきてない。

これくらいの機転がきかなきゃ、とっくの昔にヤられてる。

呆気にとられてるユリさんを前に、私は自分自身の姿勢を正し、気合を入れた。


「あのね、ユリさん。私、家に帰ろうと思うんだ」


もともと籐堂さんが来なけりゃ、ユリさんが夏休みの補講に行ってる間に出て行くつもりだった。

自分の中では、そう突然でもないんだけど、ユリさんにしてみれば、身勝手な言動に見えたと思う。

その表情に緩やかな怒りが滲む。

かといって責めるわけでもなく、ただ黙ったまま、ユリさんは私を見てた。


「だからコレ、ユリさんから籐堂さんに返しといて欲しいの」

「なんで……」


部屋の時計は、そろそろ23時を指そうとしている。

オトコに二言は無さそうな、さすがの藤堂さんも、約束どおり私のコトを送ってやろうとは思わなかったらしい。

まあ、昼間あれだけのコトしたんだから、仕方がないか……

私とバトったあと、無言で姿を消しちゃった藤堂さんが、いったいどこ行ったのか見当もつかないんだけど、


「そろそろ藤堂さん、ここに戻ってきてると思うんだよね」

「…花美」

「だって、大事なハーレー、一晩置きっぱなしには出来ないでしょ?」


そう言って、私は笑う。

アパートの駐輪場なんて、盗んでくれって言ってるようなもんだし?

そうじゃなくても、いたずらされてミラー折られたり?

絶対に心配で見にくるハズ。

もしかしたら、家からスペアキーを持ってきて、ハーレーを動かすつもりかもしれない。

動かせないなら、きっとハーレーの側で寝ずの番するはず。

まあ、いずれにしても、絶対ここには戻ってくる。

我ながら卑怯な手だとは思うけど、こうでもしないと、

『二度と来んなっつったのはあいつのほうだ!』

なんて、わめき散らしてた藤堂さんが、素直にユリさんと会うとは思えなかったんだよね。