<side 成久>

ここら辺の高校は明日から夏休みってこともあってか、店内はまだ結構人がいる。

ただ、目の前のテーブルは、ものの見事に片付けられて、さっさと帰れといわんばかりだ。

そもそも、他のメンツはカラオケだったかな?

二次会に行ってしまっていて、ここに残っているのは俺たち2人だけ。


「もう、来ないと思うよ?いい加減あきらめたら?」

「……」

「写メの子、来なくたってさ、誰も怒ってなかっただろ?けっこう、盛り上がったし、もういいんじゃないの?」


聞こえてるのか、いないのか、店の入り口を睨んだまま、俺の言葉に何の反応も示さない。

散会から、かれこれ1時間は経っている。

もう、9時すぎだ。

今さらあの子を待つ必要が一体どこにある?

大体、来るわけがない。

今頃は、佐々と一緒だろう。

昼間の溺愛ぶりを考えれば、あの子がコンパに行くのを、佐々が許すもんか。


「聞こえてる?優華ちゃん?もう、俺たち2人だけなんだけど?」

「……」


反応なし。

別にカラオケなんてどうでもいいし、もうしばらく優華ちゃんに付き合うか……


――置いていくわけにもいかないし…


と、観念しかけたところだった。

優華ちゃんの目が大きく見開く。

ホッ…っと、した表情を一瞬だけのぞかせると、すぐさま厳しい表情に戻る。

周りのことなんかお構いなしに立ち上がり、叫んだ。


「遅いっ!!霧里っ!!」


怒鳴り声とは裏腹に、不思議と怒っているようには聞こえなかった。


「ゴ…、ゴメン…ネ、剣ちゃん…、はあっ、…もう、終わっちゃった…よね、ゴメンネ」


走ってきたんだろう。

息を切らして、昼間見たあの子が、店の入り口に立っている。

ホルターネックのワンピースに、上げた髪。

そこらへんのモデルよりスタイルいいし、

下手なアイドルなんか、足元に及ばないくらい可愛い。

優華ちゃんだって、かなりの美人だ。

でも、存在感では敵わない。

店中の人が、興味心身で2人を交互に見ているけれど、

無意識にあの子のところで視線が固まったまま、目が離せないでいる。


「終わってるにきまってんでしょ!今まで、何やってたのよ!!」

「ちょ、ちょっと用事。…その、トラブっちゃって……でも、ちゃんと来たでしょ?スマホ返して!!」

「その胸の跡、つけたオトコと会ってたの!?」


その問いに……

ほんの少し、ひるんだあの子を見て、

優華ちゃんの肩が揺れた。