オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)

車窓のマジックミラー越しに、流れていく夜景を見ながら心配になる。

コンパ、間に合うかなぁ……

ちょっとでも顔出さないと、剣ちゃんスマホ返してくれないよね……

それに、


『さよなら』


って、言わないで出てきたこと、佐々くん…きっと、怒ってるだろぉな…

そんなことをぼんやりと考える。


「…はぁ……疲れた…」


なんて、一日なんだろ。

いろいろありすぎて、思考が限界。

重くなった頭を支えきれない。


コツン……


窓ガラスにもたれかかると、横目に私の顔の半分が、ガラスに映ってるのが見えた。

その奥に、静かな車内がキラキラの夜景に重なるように見える。

まるでガラスの中に、別の世界が広がってるみたい。

その別世界の後部シートに、長い足を組んで座る佐々くん姿が浮かび上がる。

子どもみたいに、すねた表情。

オトコの人をカワイイって思ったの、生まれて初めてだった……


――カワイイ…


胸がギュッってなったの。


――カワイイな…

――ああ、いとしいって…

こおいうことだ……


そう、思った。

キス…してた。


私はゆっくり瞳を閉じる。

でも、ココロの奥に焼きついた、佐々くんの姿は消せなくて……

一番考えちゃいけないことに、思いがめぐる。


『好きだ……花美』


車のシートに、

ポタ…

涙が一滴落ちた。


「……んん」


無理やり声を押し殺すと、のどの奥が無性に熱くて、堪らない。

ゴクン…っと、ひとつ生唾を飲む。


――うん……


うん…
そだね……


スキ……


わたしもスキ……だよ…

佐々……くん……


嗚咽がこらえきれずに車内に響いた。


――どうしよう、石田さんに気づかれちゃう。


わざと音を立てるように、ごそごそとカバンの中からハンカチを取り出す。

とめどなく目から溢れる水滴を、何度も何度もぬぐった。

そのうち、車内に入り込むイルミネーションの明かりが華やかさを増す。

窓の外には、キレイとはいいがたい雑多な光の一群が見えてる。


――駅前だ。


ガラスに、涙に濡れた、ぐちゃぐちゃの顔が映ってる。

後れ毛が涙に濡れて、頬にべたりと張り付いてる、ガラスの中の私は、

情けないぐらい、みっともなかった。