佐々くんが、うずくまっている私の手を取る。
「ほら、行くぞっ!」
「うぅ~……」
足に力が入んない。
うなだれたまま、促された通りに立ち上がると、きれいに敷き詰められた石畳が目に入った。
ずっと、ずぅっと続いてて、その両脇にきれいに手入れされた花が咲いてる。
ポツポツと灯り始める外灯の暖かい光。
等間隔に植えられた木々が、その美しい石畳に、薄く長い影を落としてた。
その先に、洋館が見える。
「歩けねえなら、さっきみたく抱えていくからな」
「…ここ、どこ?」
「オレん家」
「おっ…」
ようやく自分のおかれている状況がわかってきた。
「俺んちいぃぃい!?」
あの、数十メートルもありそうな先に、見えてる、
…っていか、大きすぎて半分も見えてないあの家のコトぉ!?
「ほら、行くぞ」
「……」
呆然……
あまりのことに、フラフラと着いていきそうになったけど、一歩踏み出した瞬間、なんとか我に返った。
「…か…帰るっ!!」
だけど、佐々くんはまるで聞いてくれない。
「正面はヒト多くて、めんどくせぇから」
そう言うと、洋館のほうへは行かず、まったく反対側の長い長い塀づたいに進んでいく。
塀の外側に街頭が見えた。
つまり、あっち側が道路。
外ってことだよね?
じゃあ、今歩いてるこっちは、もう、佐々くんの家の敷地内なんだ。
遠目に見える駐車場に、さっき自分たちの乗ってきた車が停めてある。
たくさんのタクシーやハイヤーが並んでいる中、他の運転手さん達に混じって、夕涼みしてる『石田』サンがいた。
――広い…本当に裏なの?
駐車場の手前で左手に曲がると、手入れ尽くされたバラ園が右側に広がり始めて、
季節を間違えて咲いちゃった薔薇のにおいが、ほのかに漂ってくる。
その奥に、別邸が姿を現した。
さらにその奥、
――茶室だ。
大きな植栽が歴史を感じさせる。
全身から血の気が引く気がした。
――剣菱(けんびし)の家と、同じにおいがする……
「やっ……嫌っ!…帰るっ!!私、帰る!!」
力いっぱい、佐々くんの腕を振り払った。

