姫花は、目的のない旅を続けていた

姫花のクレジットカードの使用記録で、ガクはすぐに滞在先を特定したが、あえて行動は起こさなかった

それを知ってか、姫花はメキシコからガクに手紙を書いた

郵便事情の悪い国で、届かないことも少なくないと聞き、“運”に任せて葉書を1枚出した


【お元気ですか?】

たったそれだけの手紙

差出人も書かずに、投函した

1ヵ月後、震える手でガクはそれを受け取っていた
薄い消印を見て、ここにたどり着くのにどれほど時間がかかったか悟った

そうしているうちに1年はあっという間に過ぎていく

この一年、姫花はしらなかった世界を目にしてきた

もともと媒体に目を向けていなかったのもあるが、貧富の差、環境破壊など聞いて知っていても、実際目にすると、ショックだった

子どもを亡くして、泣き崩れる母親の姿を目にした
姫花は翌日、その母親が何事もなかったかのように、大きな水がめを頭に担いで歩く姿を目にした

彼女の左手には小さな子どもの手が握られており、母親に置いていかれぬよう、チョコチョコと必死についていく

悲しみに浸っている時間さえないのだ

姫花はこの旅に終わりがきたのだと、なんとなく感じた

日本に帰り、アニキに頭を下げよう

日向とお別れした海岸にもう一度行こう

りんと咲とAQUAへ行こう

咲が来るなら、大吾もついてくるかな?

あ~ 龍馬にもお礼を言わなきゃ・・

賢次の仕事はどうかな?

そういえば、潤也は今のあの部屋にいるのかな?