そして体育館へ戻りに渡り廊下を歩いていく。

すると聞こえてきた男女2人の声。



「もう、終わりにしよう。こういうの。
俺さ、もうこれ以上……」



「は?七瀬、何言ってんの?あの2人の仲崩すまで、それは認めない。絶対に。」


そう話してるのは……
阿久津先輩とミリア先輩。


仲を壊す?なんか怖いこと話してる。


足を止め、功と二人顔を見合わせて頭にハテナを浮かべる。


「今度はあんたが仕掛けてよ?
しっかりあの子を捕まえといてよね。」


「……分かったよ。何すればいいの?」




「私が功くんを連れてくるから、その間に帳を襲うなりなんなり、誤解を生むようなことをしといて。しっかりと…したのをね。」


功くんと…帳。
それって私たちのこと?


私……阿久津先輩に襲われて死ぬの?




「……分かったよ。」



「保健室の時みたいに、今度は絶対失敗しないでよね。」



「あぁ、文化祭の時の。」


保健室の時……?



もしかして、功とミリア先輩がキスしようとしてた時のこと?


それで私は阿久津先輩とぶつかって……
これも……全部仕組まれたことだったの?



思わず功の方を向く。
そして、先輩たちの方へ歩いて行った。


「待って!
だめだよ。あっちに行っちゃだめ!」


思わず腕を掴み、功を見る。


「大丈夫だから。
梨乃が傷つく方がよっぽど無理。」


そう言ってすっと腕を離されてしまう。


何で……

功だってショック受けてるはずなのに、
どうして
私のためにそんなに動いてくれるの?



いつもは能天気なくせして、
私のことほったらかすくせして、

でも、
頼りたい時はそばにいてくれて……


何で功はそんなに優しいの?





「その話、どういう事ですか?」


ドスの聞いた、少し低い声。
いつもと違う、功の声。


眉間にはシワがよってて、かなり怒っている。




「なっ!?功くん、聞いてたの?
これはその……ち、違うの!」


「何が違うんですか?
だいたい、都合よすぎませんか?それ。」


「今話してた通りだよ。だから、何?」


冷たく言う阿久津先輩。
そして功を睨みつけた。
いつもの優しい先輩じゃ……無い。



「嘘……。」


思わず声に出てしまい、慌てて口をふさぐ。
だって先輩が…。


「梨乃ちゃんもいたんだ…
まあ、そうだよね。

今話してた通りだよ。
俺はミリアと手を組んでた、
こんな人でなしだよ。最低だろ?

いくらでも怒っていいよ。
いくらでも俺を殴っていいんだよ?」



「何…それ、」


まるで開き直ったような言い方。


でもそれは……
なぜか切なさを含んでいて、
悲しそうで、それで……弱々しかった。



「…っ」


なぜか頬を伝う涙。

先輩に裏切られた事。
先輩が悲しそうな顔をしてる事。

ショックと、それから保健室でのことがフラッシュバックしてどんどん混乱していく。


ごっちゃごちゃになって余計に。



「梨乃っ、ごめん。僕がもっと早くに気づいてれば……」


功は真っ先に私に駆け寄り涙を拭ってくれる。

何で功が……謝るの?



「っ!いっっつも功くんはその子ばっかり!
一度でもいいから、私を見てよ!

こんなにも……好きなのに!
もう、もう全部おしまい!七瀬、もう良いよ。あんたもこんな事したくなかったんでしょ?」



そう言ってミリア先輩はかけて出ていく。


こんなにも……好きなのに!

この言葉が頭を離れない。
先輩だって、功が本当に好きだったんだ。



それで阿久津先輩も…私の事が……



「ほら、
俺を叱ってよ?嘲笑って良いんだよ?」


先輩は、嘘っぽく笑う。
そして頬に涙が伝う。


誰も、悪く無い。
中途半端にしてた、私が一番悪い。



「先輩。ごめんなさい。」


「…え?」


「今まで、先輩の告白、中途半端にしてました。だけど今返します。
先輩………ごめんなさい。」


「……そうだよな。

梨乃ちゃん、何でそんなに優しいの?
俺かなり酷い事したんだよ?
なのに…何でかなぁ?」


「先輩、言ってましたよね。
俺は弱い人間だって。

ずっと辛かったんですよね、悩んでたんですよね?」


そう言って私は先輩の元に駆け寄り、手を握る。


その手はとても冷たくて、でも私の手を優しく握り返した。


「良い子すぎるよ、梨乃ちゃん…
もう、俺も振られたんだし諦めるしか無いよね。

なんか女々しいな、俺。」


「……っ ごめんなさい。」


「大丈夫。もう泣くなよ。」


そう言って功と違って先輩は雑に私の頭を撫でる。

恋って切ない。

功がその様子を複雑な気持ちで見ていたことなんて知らずに、そんなことを思った。