「人の闇ってのは、思った以上に深いんですよ」

「雪希ちゃん?」

「そして、霊長類の中で最弱なんです。力をすべて知恵にしてしまった可哀想な無力な生き物なんですよ、人間というものは……」

「どうしたの急に」

「私は、一生癒えることのない、消えることのない傷を抱えています。自分で付けた、付けてしまった、一生消えない傷。これを見る度に、どれほど楽しくたって幸せだったとしても、あの時を思い出して、現実に引き戻していく、言わば呪い。私は、死に呪われているの、だから誰も助けられない、鶴谷くんだってきっと…逃げる……」

「逃げない!」

ビクッ

川鷺さんの大きな声が響く。優しそうな川鷺さんが、初めて声を荒らげた瞬間だった。

「鶴谷さんは、逃げない……!」

「そんなの絵空事だ!私は知ってる!無理だと、飽きてしまうと、すぐに手放して、裏切られることを!私は!何度も経験した!」

「!……鶴谷さんは、絶対に逃げない。鶴谷さんは、誰よりも優しくて、正義感が強くて、誰よりも、馬鹿正直で……まっすぐなんです。一度決めたことは、絶対に変えない。多分、日本の誰よりも、根性あると思います……!」

川鷺さんは、目を輝かせてそういう。鶴谷くんがどれほど信用、信頼されているかわかる。