「仲がよろしゅうございますね。本当によかった」
「ひっ」
 今度はさーっと青ざめて、エルトリーゼが視線を向けるとドアの前にレディウスの姿があった。
 どこから見られていたのだろうか? 恥ずかしさのあまり卒倒しそうだ。

「み、み、見て……っ!」
「さっきから居たけどな」
 アヴェルスがさらっと言ったので、反射的に右ストレートをくりだしたがあっさり避けられる。
「分かってたなら教えてよ! どうして黙ってるのよ!」
「見せつけてやろうと思ってさ」
 まだシヅルとレディウスの件を根に持っているのだろうか。レディウスにはまったくそんなつもりないだろうに。

「おやおや、殿下がここまで寵愛なされるとは」
「も、もう仕事に行きなさいよあんたたちは!!」
 ぐいぐいとアヴェルスの背中を押して、エルトリーゼは二人を部屋から追いだすと扉の前に座りこんで顔を両手で覆った。なんて恥ずかしい。
 しばらくそうしていると、ノックの音がしてロレッサの声が響いた。

「お嬢様、あ、こほん……エルトリーゼ様? 入ってもよろしいでしょうか?」
 どうやらロレッサはいまだに「お嬢様」と呼ぶ癖が抜けないようだ。
 さすがにそろそろエルトリーゼもそういうふうに呼ばれる年齢ではないし、結婚はいい機会だったかもしれない。

「いいわよ」
 返事をする前に立ちあがって扉の前から離れる。入ってきたロレッサはしげしげとエルトリーゼを見つめて、頬に手をあててにっこり微笑んだ。まるで察したような顔で。
「まぁ、まぁまぁ! エルトリーゼ様――」
「それ以上何か一言でも言ってみなさい、追いだすわよ」
 追いだすというのは冗談であるのだが、即座にそう言ったエルトリーゼにしゅんとしてロレッサが言う。

「もう、恥ずかしがり屋さんなんですから、エルトリーゼ様は」
「恥ずかしいに決まっているでしょう!」
 少なくとも今日は絶対に部屋から一歩もでないと誓った。
 こんな格好でうろうろしていたら、ロレッサのように目敏く察する人間がどれほど居るだろう。恥ずかしすぎる。