翌朝、エルトリーゼは王城まで移ったメイドのロレッサに着替えを手伝ってもらうのを拒んだ。こんな恥ずかしい姿、見られたいものではない。
 首筋や胸元に残る赤い跡が隠れるドレスを選んで纏うと、エルトリーゼは不機嫌そうに衣装部屋をでた。アヴェルスとの寝室に出ると、ちょうど彼は部屋を出て行こうとしていた。

「……なんだ、隠したのか」
 少し残念そうな声にエルトリーゼは眉を顰める。
「当たり前でしょう!! 何考えてんのよこの馬鹿っ! どうしてくれんのよ! 恥ずかしくて外に出られないわ!!」
 頬を真っ赤にして怒鳴るエルトリーゼに近づくと、彼は躊躇いもなく布に覆われていない彼女の細い肩にキスをした。嫌な予感がして慌てて視線を向ければ赤い跡。

「こ、この……! 何しくさってんのよ! 本当に!」
「結婚したとはいえ、おまえを狙ってるライバルは多いんでな。まぁ、こんなじゃじゃ馬だと知ってても寄ってくるかは知らないが、虫除けをしておくに越したことはない」
 アヴェルスの言葉にエルトリーゼは目を丸くしていた。自分の容姿が好評を得ていることは知っていたが、彼が心配するほどなのだろうか。
 だとしても、エルトリーゼはアヴェルス以外の誰も愛するつもりなどないというのに。

「私は浮気なんかしないわよ」
 そう思って言うと、アヴェルスは額をおさえた。
「そんなことするやつだと思ってねーよ、ただ、おまえの意思に関係なく手をだしてくるやつは居るってこった。俺がおまえに興味を持ってないと思われれば、強硬手段に出るやつも居るだろう、お咎めなしだと思ってさ。女のおまえじゃあ、力ではどうしようもないだろ」
 つまり、彼なりにエルトリーゼを守ろうとしてくれたのもあるのだろう。
 そう思うとまた頬が熱くなってくる。

「あ……ありがとう。そんな可能性、考えてなかったわ」
「おまえ、もう少し自覚を持ってくれよ。おまえに手をだす輩が現れたら、俺も平静で居られるか分からない」
 ぼっと音がしたのではないかと思うほど頬が赤くなって、耳まで赤く染めてエルトリーゼは視線を彷徨わせた。

「や、やめてよね。その……あなたにそんなふうに言われるの慣れてないから、は、恥ずかしいんだからっ!」
 恥ずかしさのあまり涙目になっているエルトリーゼの髪にアヴェルスはキスを落とす。
「分かったなら、もっと首元の見えるドレスに替えてくれてもいいんだぜ?」
「む、無理! 絶対に無理!」
 真っ赤になった彼女の頬を悪戯っぽく笑ってつつくアヴェルス。
 そんな二人に穏やかな声がかかった。