その後、アヴェルスと同じベッドに潜りこんでエルトリーゼは頬を真っ赤に染めてうつぶせになっていた。
「おい、何、亀みたいになってんだよ」
 アヴェルスの言葉に言い返す気力もない。恥ずかしくて顔があげられない。異性と、とはいっても夫なのだが、とにかく、一緒のベッドで眠るなんて。
 せめてなんとも思っていない頃ならよかった、変に意識することもなかったし。

「は……恥ずかしくて……」
 ぽつりと呟くと、しばらくの沈黙があった。不思議に思って顔をあげると、彼は薄っすら頬を染めて視線を逸らしていた。
「な、何よ、言いたいことがあるなら言いなさいよ!」
 不満そうにエルトリーゼが言うと、アヴェルスはこほんと咳払いをして告げる。

「いや……おまえにもそんな可愛いところがあるんだなと」
 意外とまともな言葉だった。また馬鹿にされるかと思っていたエルトリーゼは頬を熟れた苺のように赤く染めてまたシーツに顔をうずめる。
 好きでもなんでもなかった頃はどうでもよかったのに。好きなのだと自覚してしまったとたんにこうなるとは。
 エルトリーゼの豹変ぶりにはアヴェルスも少し戸惑っているようだった。
「怪我とか、本当にしてないんでしょうね」
 話題を変えようと小さく呟くと、ふわふわとした淡い金色の髪を彼の手が撫でる。

「大丈夫だって言っただろ、医者にも診せたし問題ない。おまえこそ、どこか傷になってたりしないだろうな?」
「ないわよ。あなたが完璧に護ってくれたから」
 エルトリーゼの返事に「そうか」と呟いて、アヴェルスは拗ねたような声で言う。
「いい加減、顔をあげたらどうなんだ。その体勢で寝る気じゃないだろうな」
「……しばらくでいいから……寝室、別にしていい?」
 ぽつりと呟くと、髪を撫でていた手がぴたりと止まる。少しだけ嫌な予感がして顔をあげると、アヴェルスはそれはもう綺麗に、にっこりと微笑んでいた。

「てめぇ、まだ俺に側室取らせたいわけじゃねぇだろうな。ただでさえジジイどもがうるせぇんだよ、俺はおまえ以外に妻を取りたくねえってことくらい、分かるだろ」
「ユーヴェリー様に最低だと思われたくないからでしょ」
 それだけ言ってまたシーツに顔をうずめる。瞬間、ぬくもりが近づいた気がした。ほどなくして首筋に彼の唇が触れる。

「ひっ……ちょっと、やめてよ!」
 驚いて飛び起きようとするのに、背中から覆いかぶさられて身動きが取れない。
「ひとがどれだけ我慢してやってるか分かってんのか、おまえ」
「……我慢? 何を?」
 不思議そうにエルトリーゼが言うと、空気が凍りつくのを感じた。
 何か悪いことを言っただろうか、なぜアヴェルスが怒っているのだろうか? 一気に冷や汗が流れて目が回りそうだ。