ほどなくして、真夜中の城の中庭に二人は立っていた。
「殿下! エルトリーゼ様、おかえりなさいませ……!」
 そこで待っていたのか、レディウスに声をかけられるとアヴェルスは少しばかり不満そうな顔をした。彼とシヅルが似ていることがアヴェルスの中では引っかかっているのだろう。
 意外とやきもちを焼くのだと考える。そして、それが嬉しくもあった。彼が本当に自分のことを想ってくれているようで……いや、あんな場所まで助けに来てくれたのだから、それは疑いようもなくなったのだが。

「アヴェルス、私が好きなのはあなたよ」
 はっきりとそう告げれば、彼は少し照れくさそうに頬を掻いた。
「なんか……おまえがそう素直だと調子狂うんだけど」
「だって本当のことだもの」

 まるで恋人同士のようだと思う、とっくに夫婦になっているというのに。
 けれど、感情的に言えばこれでいいのかもしれない。順を追っているのだと思える。
 二人の様子を見ていたレディウスがどこか嬉しそうに言う。

「おや……私はお邪魔でしたでしょうか?」
「おまえまでからかうなよ」
 レディウスはにこにこと笑って、本当に嬉しそうにアヴェルスとエルトリーゼを交互に見る。
「こんなに喜ばしいことはそう滅多にあるものではありませんよ殿下。あなた様とエルトリーゼ様の仲が深まったのだと思うと、私としても大変喜ばしい」

「あーあー、分かった分かった、分かったからおまえはもう仕事に戻れよ。身体の不調はないし、俺もこいつもどこも怪我なんかしてねぇから」
 アヴェルスの言葉に頷いて、レディウスは「ただし」と付け足す。
「念のため、あとで医者には診せますからね」
「分かった」
 去っていくレディウスを見送って、アヴェルスはエルトリーゼに手をさしだした。

「疲れただろ、休もうぜ」
「疲れたのはあなたほうじゃない、私を抱えて走ってきたんだもの」
「あの程度で疲れてたらこの人生やってらんねーよ」
 エルトリーゼはアヴェルスの手に手を重ねて、共に歩きだす。
 不思議な気分だ、ここから逃げだしたときとはまったく違う。隣を歩く彼に確かな愛情を抱いている自分に気づいて、気恥ずかしさから頬が熱くなる。