あっというまに花火大会の当日。セツナは浴衣を着て日が沈む頃に会場に向かった。
「セツナ!」
 先に来ていたのか手を振るシヅルに気づいて微笑むと、同じように浴衣姿の彼は嬉しそうに駆け寄って来た。
 青い目を輝かせて、彼はセツナの頭からつま先までを見る。

「似合ってる似合ってる! すごく可愛い」
「あ……ありがとう」
 彼にさようならを告げに来たのを思えば、あまり明るい気分にはなれないが。
 それでも最後の思い出だと考える。少なくとも今、セツナは足元がふわふわとした感覚で、おそらくもともと居た世界と、この世界との狭間に行きかけている。あのとき、アヴェルスに会った日のように。
 しばらくはどこか上の空で、セツナは隣を歩く過去の恋人を見つめていた。

「ねえ、シヅル。もしも……私が明日死んじゃったらどうする?」
 花火が打ちあがる頃になって、唐突にそう告げたセツナに彼は首を傾げた。
 この彼が何を言おうと、ここはただの仮想現実でしかないのだが。
 それでも聞いておきたいことの一つだった。

「何言ってるんだよ、そんな、縁起でもないこと……」
 綺麗に散っていく花火の光が周囲を照らす。ほんの一瞬のことだ。
「もしもの話よ。答えてくれたら嬉しいんだけど」
 セツナがそう言うと、彼は腕を組み、セツナから視線をそらして考えこんでいるようだったが、やがて唇を開いた。

「……俺は、セツナを忘れないし、ずっとセツナのことを大切に想うよ」
「――そう」
 嬉しい言葉ではあった。だが、死というのは絶対の別れなのだ。それをセツナは知っている。
「私、あなたとすごせて楽しかった……すごく」
「セツナ……?」
 花火を見あげてそう告げたセツナに、シヅルが怪訝そうに声をかける。
 きらきらと散っていく火花を見つめて、セツナは微笑んだ。

「夢が見たかったの。でも、しようがないわよね。私もう、死んでいるんだから……セツナ・ドウジマは、どこにも居ないんだから」
 そう言って微笑んで、彼女は身を翻した。
「さようなら、シヅル。あなたとまた会えて楽しかった」
 たとえそれが仮初の現実であったとしても、セツナの記憶をもとに構築された理想の世界であったとしても。
 夢のような一時だったとしても……。
 そのまま立ち去ろうとした彼女の肩を強い力でシヅルの手が掴む。