あれから三日が経った、花火大会はもうじきだ。そのあいだ、セツナは苦悩し続けていた。
 アヴェルスが熱で倒れる前なら、きっとこんなふうに思い悩むこともなかっただろう。
 あんな言葉聞かなければ、こんなに苦しむこともなかっただろう。
「――あ」
 的を大きく外して矢が音をたてて突き刺さる。そのことに、弓道場に居た後輩もシヅルもきょとんとしていた。
 セツナがこんなに大きく外すことはない。おそらく、一度もない。

「セツナ……? どうしたんだ?」
 心配そうにシヅルが近づいてくる、セツナは眩暈を覚えて額をおさえた。
「いや……あ、あはは……ちょっと、体調が悪いみたい……で」
「おい! セツナ!?」
 そのままふらりと倒れそうになるのを慌ててシヅルが支える。
 駄目だ、このまま気を失っては。そう思うのに瞼が重く、脳が反転するような感覚と共に視界も五感も遮断される。

 ◇◇◇

 その姿になるのはとても久しぶりのように思えた。
 何もない暗闇に座りこむ自分、エルトリーゼ。
「私って……馬鹿ね」
 小さく呟いた。結局アヴェルスのことを信頼できなくて、その結果、逃避してさえ逃避しきれずに居る。

 切り捨てることもできず、かといって信じることもできない臆病っぷりだ。
 けれどそれは、つまり、エルトリーゼにとってアヴェルスという青年がとても大切な人間であるという事実を告げている。
 だからこそ、嘘であるなら逃避したい。だからこそ、真実であるなら共に居たい。

「あんなのに惚れるなんて、どうかしてるわ」
 自分にはシヅルが居るのに。けれどそれは、本当は……。
 自分が死んだことを理解している時点で、シヅルという存在もとうに過去のものではあったのだ。ただ、アヴェルスとの縁談から逃れたいがため、そして前世の後悔ゆえの執着だった。