翌朝は晴天の空だった。嵐が過ぎ去ったあとかのように、眩しい夏の陽射しが窓から入ってくる。
 セツナの部屋で目をさますのは不思議な気分だ。もう何十年も帰っていない我が家、そして本来なら、二度と帰ることのない家だったのだから。
 ともかく、この世界に来たからには学校に行かなければならない。セツナは制服に袖を通し、外に出た。

「よお」
 すると、そこにはちょうど通りかかったのか見慣れた幼馴染の姿があった。
「ナツ、めずらしいわね、こんなに早くに居るなんて」
 目深にパーカーのフードをかぶった青年、金に染めた長めの髪がフードの隙間から流れている。顔自体はよく知らないが、一学年下の腐れ縁でもある青年だ。
 子供の頃から同じ学校に通ってきて、高校も同じ。家も近所だ。

「おまえは朝練?」
「ええ、そうよ。あなたも何か部活動をすればいいのに。帰宅部なんてもったいない、運動神経も頭もいいんだから」
「余計なお世話だ。部活なんて面倒でやりたくないね、毎朝毎朝、家を飛び出していくおまえの気がしれないよ」
 セツナは弓道部だが、ナツは帰宅部だ。彼は昔から部活動に意欲的ではない。というより、なんでもそつなくこなすくせに何にも熱意というものがないのだ。
 そういう意味では多少妬ましい。弓道だって、こんなに練習しているセツナよりナツのほうが上だろう。今までも何もかもそうだった。

「毎朝毎朝、ホームルームの頃になって平気で教室に入ってくるあなたのほうが私は不思議だわ」
「慣れたろ」
「ええ、私だけじゃなくてみーんなね! じゃあ、私急いでいるから行くわよ」
 ナツに手を振って走り出す。ああ、なんて懐かしい生活だろう。
 ドレスなんて似合わないものを着て、お茶会だの貴族の勉強だのに奔走していた頃とは大違いの充実した生活だ。
 いや、エルトリーゼとしては好評だったのだから、ドレスも似合っていたのだろうか? それにしても、セツナという姿を覚えている自分には違和感のあるものだ。