「君といると新鮮で楽しくて、初めて彼女のことを忘れていられた。忘れるということすら恐かったのに。気付いたら真琴と話ながら久しぶりに心から笑っていた。ずっと君を見ていたいっていう気持ちが溢れてきて、今こうしてここに一緒にいる」

「なのに、どうして写真をずっと手帳に挟んでいたんですか?」

心が震えていた。

澤井さんを信じたい。

だけど、まだ信じられない。

彼女を忘れない彼を丸ごと愛するなんて私にはまだ無理だったから。

「手帳に挟んでいたことすら忘れていたんだ。これは本当だ。信じてほしい」

彼の目は潤んでいた。

こんなにもまっすぐに私の気持ちに寄り添ってくれているのに。

「もっと、早く教えてほしかったです」

私はうつむいた。

私の疑心はどんどん膨らんで、どんな彼の言葉も耳に入ってこない。

嫉妬って。こんなにも心を狂わせるものなの?

「きちんと話すつもりだった。ただ、今はまだ真琴には衝撃が強すぎて傷付けるかもしれないと思っていたから時期を見計らっていた」

「それは、」

言葉が勝手に出てくる。

声が震える。

「私が恋愛経験ないから、こんな話しても理解できないからですか?私には受けとめきれないって思っていたからですか?」

「それは違う」

彼は両手をテーブルに下ろして少し前のめりになる。

「何が違うんですか?私にはわからない。元々、どうして澤井さんみたいなすごい人が私なんかってずっと思ってました。遊びじゃないって信じようと思っていたけれど、でも、こんな風に私を信じてもらえないなら私もあなたを信じることができません!」

彼は深く椅子に座り直し、目を伏せ必死に言葉を探しているようだった。

だけど、今彼に何を言われても私はその言葉を信じることができなくなっている。

きっとそれを彼も感じていた。

それなのに、まだ何かを澤井さんに期待している自分もいる。

訳がわからなくなっていた。

愛する人がかつて誰かを愛したっていう事実がこんなにも私を苦しめる。

私にとって澤井さんは初めての人。

だけど澤井さんにとってはそうじゃないってだけなのに。

黙ったまま、時計の針の音だけが部屋に響いていた。