「私が話するってどうしてわかったんですか?」

「こないだ俺のこの手帳に挟んでいた写真見たんだろう?」

知ってたんだ。

顔がかーっと熱くなる。

なんだか情けないような恥ずかしいような居たたまれない気持ちになってうつむいた。

「わざと見ようとしたんじゃないことくらい、真琴の性格からわかってるから大丈夫だよ」

顔を上げると、彼は落ち着いた表情で私を見つめている。

その写真のこと言われても何の動揺も見せていないことに少し安心して、私はようやく彼の目ときちんと向き合った。

「彼女は?」

ドキドキしていた。

彼の記憶を呼び起こそうとしている自分に。

「以前連れていった美術館で5年前に交通事故で他界したって話した女性がいただろう?ピラミッド・ファンタジーを描いていた。その女性だよ」

やっぱり。

「お付き合いされてたんですか?」

膝の上に置いた手をぎゅっと握り締めながら尋ねる。

澤井さんは、何も言わず私の目を見つめたまま頷いた。

「彼女は俺と喧嘩して出ていった直後、交通事故に遭ったんだ。周りからは不慮の事故だと言われたけれど、俺は喧嘩さえしなければこんなことにはならなかったとずっと自分を責めて生きてきた。彼女を忘れようと自暴自棄になって色んな女性と付き合ってきたけれど誰とも繋がらないし、彼女を忘れることなんかできない。きっとこの先誰を愛しても同じことの繰り返しだと思うようになっていた時、真琴と出会ったんだ」

澤井さんは肘をつき、両手を自分の顔の前で組んだ。

組んだ手の上から見える彼の切れ長の目は私を離さない。

まるで私の気持ちの奥を探るような目だった。