その夜澤井さんが帰宅するのを待っていた。

ダイニングの椅子に腰掛けて時計を見ると23時を少し回っている。

毎日のことだけど遅い。

きっと今日も疲れて帰ってくるよね。

そんな彼を捕まえて、彼女のことを聞こうだなんて本当に私はどうかしてる。

大きくため息をついてテーブルに頬杖をついた。

誰かに嫉妬するほど誰かを好きになったことが初めてだからこんなにもしんどいの?

こういう気持ちはきっとよくない気持ちだ。それはわかってる。

私がもっと大人だったら、そんなこと気にしないで今の澤井さんだけをしっかり見つめていられるのかもしれない。

その時入り口の扉が開く音が響いた。

思わず椅子から立ち上がってしまう。

「おかえりなさい」

いつもなら飛びだしていくんだけど、今はそんな気持ちになれなかった。

今から伝えることにひどく緊張している。確かめないといけないっていう気持ちとそこまでして確かめないといけないのかっていう気持ちがぶつかっていた。

「ただいま」

彼はそう言うと、私の肩に手をそっと置き頬にキスした。

「シャワー浴びてくる。先に寝ててくれていいよ」

そう言ってネクタイを緩めながらバスルームに向かおうとした彼の腕を思わず掴んで引き留める。

「ん?」

彼の顔が私の方に向けられる。

「あの、澤井さんに聞きたいことがあるんです」

「いいよ」

澤井さんは微笑みネクタイを解くと、ダイニングの椅子の後ろにかけそのまま腰掛けた。

私も彼の正面に座る。

「多分、真琴から近いうちに話があると思ってた」

「え」

そう言うと、澤井さんはバッグから黒革の手帳を取り出しテーブルに置いた。