「見えてきたよ」

澤井さんの視線の先に、昨日画像で見た大きなしだれ桜が小高い丘の向こうに現れ始めた。

桜の回りにはたくさんの人だかりができている。

皆スマホを片手に桜の画像を必死に撮っているみたいだ。

少し赤みの強いピンクの花は丘の緑に今にも触れそうなほどに垂れている。

これだけの花をつけたらさぞ枝に負担がかかっているはずなに、太い幹はしゃんと立っていて枝は風が吹くと気持ちよさそうに揺れていた。

「この桜は強くてきれいですね」

近くまで来るとその姿は想像以上に圧巻だった。

「強い？」

彼が尋ねる。

「だって、こんなに花をつけて重そうなのにしゃんとしてる。我慢強いんだろうなぁって」

澤井さんは軽く笑った。

「強く見せてるけど本当は辛くてたまらないのかもしれないな」

そう言った彼の横顔がとても寂しそうに見えて思わずその手をぎゅっと握り締めた。

あの絵を見ていた時と同じ遠い目をしている。

「真琴」

「はい？」

「仮彼氏役、そろそろ終わりにしてもいい？」

え？

すーっと体中の熱が奪われていく。

私、澤井さんに何か失礼なこと言ったんだろうか。

どうして急にそんなこと。

続ける言葉が出てこず目の前で揺れる桜の花をただ見つめるしかできなかった。