車を運転する澤井さんはいつもよりも口数が少ない。

私が話し掛けるといつものようにふざけて返してくれたり優しく微笑んでくれるので少し安心する。

高速は混んでおらず一時間もかからずに現地に到着したけれど、この桜は有名なのか近辺の駐車場はかなりいっぱいでなんとか停めれるような状態だった。

「ここの桜は有名なんですね。思っていた以上に混んでます」

「うん。迷子になるなよ」

澤井さんはそう言うと、私の手をそっと握った。

嬉しくなって私もその手をしっかりと握り返す。

背の高い澤井さんは人混みでも頭一つ分皆から出ていて目立っていた。

「迷子になっても澤井さんはすぐ見つけられそうです」

私は笑いながらそんな彼を見上げて言った。

「じゃ、俺しゃがむよ」

澤井さんはふざけた調子で腰を低くして歩く。

一見クールなのに、彼はとてもよくふざけて私を笑わせてくれた。

きっと亜紀に言ったら「信じられない!」って目を丸くするに違いない。

彼とだから、男性苦手な私でも穏やかに笑っていられるんだと思う。

こんな人、他にいるんだろうか。

彼以外に好きになれる人って見付かるの?

居心地がよくなればよくなるほどそんな不安が胸をよぎる。

だって、澤井さんは私のステップアップのために今一緒にいてくれてるだけなんだから。