ぼーっとしている自分に気づき、頬をパンと叩く。

朝ご飯の用意しなくちゃ。

ドキドキする胸を押さえながらトーストをオーブントースターに入れタイマーをセットする。

フライパンで目玉焼きを焼いていると澤井さんのスリッパの音が近づいてきた。

顔が熱くなる。

「あー、お腹空いた」

顔を洗った澤井さんはさっきのことなんか忘れてしまったかのように爽やかな顔でキッチンをのぞき込んだ。

なんだ。

結局、いつもの調子でふざけてるだけだったんだ。

「朝からふざけすぎですよ。びっくりしたじゃないですか」

思わず、ふくれっ面で澤井さんを軽くにらんだ。

澤井さんは私の顔をじっと見つめた。

「ふざけてるつもりはなかったけどね」

「もうすぐ朝食の用意できるので、向こうで待ってて下さい」

その切れ長の目に吸い込まれそうになって、慌ててフライパンに視線を戻した。

また胸のドキドキが膨らんでくる。

そういう冗談、本当にやめてほしい。きっと私の反応を見ておもしろがってるんだろうけど、その後何も言い返せない自分がはがゆかった。

トーストの横に目玉焼きを乗せた皿を、新聞を広げている澤井さんの前に置く。

「お待たせしました」

「ありがとう。相変わらず真琴の作る朝食はおいしそうだな」

いつもありがとうと言ってくれる澤井さんの言葉は私の疲れを吹き飛ばしてくれる。

だから、どんなに朝眠くても彼のために朝食を作ってるんだよね。

朝食を食べながら、昨日メモをとっていたお花見の場所を彼に見せて言った。

「都心から一時間くらいだと思います」

「ここ?」

メモを見ながら、彼の頬が一瞬強ばったように見えた。

「昔行ったことがあるからわかるよ」

「そうなんですか?じゃ、他の場所にしましょうか?」

「いや、久しぶりに行ってみたい。真琴は初めてだろう?かなり圧巻な桜が咲いてるよ」

「はい、画像では見ましたがとてもきれいだったのでここがいいかなと思って」

彼は少し笑って頷くと、目玉焼きを口に入れた。