お花見の日は朝早くから起きておにぎりを握り、簡単なおかずを何品か作って弁当箱に詰めた。

昨晩遅くに帰ってきた澤井さんは目をこすりながら寝室から出て来た。

「おはよう。もうこんな時間か」

「おはようございます。まだ8時だから大丈夫ですよ。今日行く場所もそんなに遠くないし。まだゆっくり休んでて下さい」

彼はテーブルに置かれた弁当箱に目を向ける。

「ひょっとしてお弁当?」

「はい、簡単なものしか作れなかったけど、お花見だしせっかくだからと思って」

「嬉しいな。ありがとう真琴」

そう言うと、澤井さんは満面の笑みで私をぎゅっと抱きしめた。

え!!急に抱きしめられて驚く。

澤井さんのトレーナーの爽やかな香りが私の体を包んでいる。

彼の手が私の背中からすっと腰に落ち、その唇は私の首筋に当たる。

澤井さんの熱い吐息が私の首筋をなぞっていくその甘い感覚に気が遠くなっていく。

「・・・・・・まこと」

少しかすれた私を呼ぶ声が耳にそっと響く。

いつもと違う澤井さんの声と抱擁に戸惑いながらもその背中に手を回した。

更にぐっと彼の体に引き寄せられる。

「さわいさん?」

澤井さんの胸の中で小さくその名を呼んだその時、すっと澤井さんの体が私から離れた。

「ごめん。顔洗ってくる」

頬が少し紅潮している彼は私から目を背け、前髪を掻き上げながら洗面所に足早に向かった。

その後ろ姿をぼんやり見つめながら、私の胸は張り裂けそうに切なくてドキドキしてる。

いつも私の事を大切にしてくれる澤井さんがあんなに荒々しく私を抱きしめてきたのは初めてだったから。