澤井さん?

どうしよう。まだ話は途中なのにもう来ちゃったよ。

それに、私は一体どこへ向かおうとしてるのか自分でもわからなくなっていた。

だけど澤井さんともっと一緒にいたいしもっと彼のこと知りたい。叶わない相手だと分かっているけれど、繋がらない相手だと分かっているけれど。

「こんな時間に誰だ?」

父は明らかに不機嫌な顔をして立ち上がろうとした。

思わずそんな父を制して、「いいよ、私が行く」と言って1人で玄関に急いだ。

玄関を開けると、門の向こうに長身の彼のシルエットが浮かんでいる。

私はそっと玄関の扉を閉め、澤井さんの方へ向かう。

「本当に来ちゃったんですね」

彼の顔を見上げながら呟くように言った。

「もともと同居しようと提案したのは俺の方だからね。お父さんは今忙しいのかな」

「忙しいっていうか、食事中ですけど」

「そうか、じゃ食事が終わった頃にでも連絡入れてほしい。出直すよ」

ふと目に涙が滲んだ父の顔が思い出される。

「あの、私やっぱり」

そう言い掛けた時、玄関の扉がカチャッと開いた。

「真琴、誰だい?」

出て来たのはもちろん父だった。

なかなか戻らない私を心配してやってきた父の眉間には深い皺が刻まれていた。