ドアを開けて「今行きます!」と慌てて言った。

晩御飯なんかゆっくり食べてる状況じゃない。

きっと高速すっ飛ばしてきたら30分くらいで家につくだろう。

階段を降りる足もぎこちない。

「遅かったな。何やってんだ」

父は不機嫌に言いながらも、温め直したカレーをご飯の上にかけてくれた。

「いただきます」

全然お腹空いてない。

カレーってこんなに味のしない食べ物だったっけ。

父の作るカレーが昔から大好きだった。

辛いもの好きな父が使うカレールーはいつも辛口。

小学生の頃からその辛口カレーを食べているせいかいつの間にか苦手だった辛口も平気になっていた。

「俺に話したいことあるんだろ。言ってみろ」

父はビールを飲み、視線はテレビに向けながら尋ねる。

今、それ聞きますか?

お肉の塊をゴクンと飲み込んだ。

大きな熱い塊を飲み込んだせいか喉がやけどしたみたいにヒリヒリする。

キッチンに行き冷たい水をコップに入れて飲んだ。

父の顔を見ないようにすれば、少しは緊張せずに言えるだろうか。

いずれ、澤井さんが来て無茶なことを言われる前に自分で父をなるべく傷付けないように言いたかった。

って、いつの間にか同居する前提になってるけど。

「あのね、お父さん」

キッチンのシンクに背中をもたれかけさせながら父に声をかける。

「なんだ」

父はすぐに答えた。

「私がこの家を出たいって言ったらどうする?」

「ん?」

父の顔が見えないから、どんな顔してるのか必死に想像する。

きっとビールのグラスをもったまま無表情で固まってる。

そして、頭の中で色んなことを考えて言葉を探してる。

「お前、ひょっとして好きな奴でもできたか?」