ドアノブにかけていた手を離し、再びベッドに腰掛ける。

無性にドキドキしていた。この電話、取るべきなんだろうか。

私、ちゃんと澤井さんに伝えられる?

「はい」

声が震えていた。

『真琴?さっきのLINEの返事だけど何かあった?』

澤井さんには全てお見通しなのかもしれない。

どこまでばれてるんだろう。私の気持ちまでもう見破られてる?

「何もないです。だけど、やっぱり同居は無理です」

『お父さんに君から切り出すのはきっと辛いことだろうってずっと考えてたんだ。真琴の性格上、嘘はつけないと思うから。だけど、正直に話すなんて君にとったら拷問に近い状況になる』

ここまで私のことわかってくれる男性って父以外に知らない。

胸の奥で二つの気持ちがぶつかり合って傷付けあっていた。

『お父さんは今家にいる?』

「います」

『今から真琴の家に行くよ。お父さんには俺から話す』

「え?」

電話はすぐに切れてしまった。

本当に来るの?

だけど、どうやって父を説き伏せるっていうの?

仮の彼氏として私の恋がうまく運ぶお手伝いをするために一緒に暮らしますって?

ふざけてる。

そんなこと言ったら、父の怒りは爆発するよ。

常識的な頭のいい澤井さんのすることじゃなかった。

どうしよう!

私はスマホを胸に当てたまま、部屋をくるくる回る。

「おいー!カレーが冷めちまうぞ!」

下から父の声が響いた。