窓ガラスに打ち付ける雨音が次第に激しくなっていく。

すぐ止みそうもない雨。私はコーヒーカップをぎゅっと両手で握り締めた。

雨は嫌いだった。

暗いところも嫌いだけど、激しい雨はなんだか逃れようのない恐さがあった。

幼い頃から母がいなくて不安な日々を送っていたからかもしれない。

少しの不安も人一倍不安に感じてしまう。

だけど、今日は違っていた。そばに澤井さんがいる。

不安気な顔で座っている私を優しく見つめてくれている澤井さんがいるだけでこんなにも安心していられる。

「大丈夫?」

彼は優しい声で尋ねた。

「雨は嫌いだけど、今日は大丈夫です」

「今日は大丈夫、か」

澤井さんは目を細めて微笑むと顔の前で組んでいた手を解きテーブルに両手を下ろした。

「真琴」

「はい?」

「手っ取り早くここに一緒に住まないか?」

飲みかけていたコーヒーを吹き出しそうになって慌ててハンカチで口元を押さえた。

「一緒に住むって?」

「同居ってことだ。一緒に住めば一気に男に慣れるだろ?」

「慣れるっていっても同居なんてそんな簡単に言わないでください」

「真琴が同居に対して引っかかってることは何?」

激しくなった雨音が私の思考力をにぶらせている。

「最初に断ったように、俺は真琴と一線は越えないと約束する。俺も君がそばにいてくれたら楽しいし、久しぶりに誰かと心から笑えている自分にも驚いているんだ」

正面から私をじっと見つめる澤井さんの目が少しだけ潤んでいるように見えたのは気のせい?