「デザートいらないなら私食べちゃうわよ」

ボーッとしている私の横から耳元で相原さんがささやくように言った。

「あ、食べます食べます」

私は慌ててアイスクリームの入ったガラス皿を手前に引く。

そんな私を見て相原さんはくすくす笑った。

「さっきの藤波専務の話、すごいわね。秘書メンバー達が聞いたら皆うらやましがるわよ」

「どうしてですか?」

「だって、澤井ホールディングの御曹司ってだけでかなりの玉の輿でラッキーなのに、その御曹司がこれまたすごいイケメンなんだから。私も一度だけ会ったことあるけれど、テレビに出れそうなくらいの顔もスタイルも抜群の素敵な男性よ」

「そうなんですね」

知ってるんだけど、知らないふりをする。

「谷浦さんはあまり男性を知らないだろうから、一つだけ手っ取り早く射止める方法を教えてあげるわ」

相原さんはそう言うと、アイスクリームをぺろりと口に滑り込ませて私に顔を近づけた。

「谷浦さんが一番得意とするお手製の食べ物ってある?」

「ええ、まぁ」

「それをまずは食べさせてみて。男は胃袋から捕まえろって昔から言われてるけど、私の経験上も間違いなくそれは正しいわ」

胃袋、ねぇ。

いつもおいしい食事ばかり食べてる澤井さんの胃袋を掴むのはかなり至難の業だと思いながら頷く。

私の得意なもの、か。

この前父に教えてもらった抹茶プリン、初めてにしては上出来でいつもの半額でお店に出したらすぐに売り切れたっけ。

いつ会えるのかわからないけれど、その時は抹茶プリン作って持っていこう。

それでどうこうなるとは思えないけど。

だって澤井さんは今女性には興味がないんだもん。

誰とお見合いしたって、誰かにおいしい食べ物をもらったって、きっとそう簡単に心は動かない。

彼の心の中に、あの写真の彼女がいる限り。

ふとそんなことが頭をよぎった。

そういう勘って結構当たるんだよね。当たってほしくない時ほど。