「それは」

思わず返答に詰まっていると、亜紀がすかさず口を開いた。

「いいお話じゃないですか!もし谷浦さんが無理なら私が手を挙げてもいいですか?」

「ん?」

藤波専務が亜紀の方に顔を向けた。

「いや、じゃ、是非一度お会いしてみたいです」

その瞬間、思わず立ち上がって藤波専務の顔を正面から見据えていた。

横に座っていた相原さんも驚いた顔で私を見上げている。

「おっ、やっとその気になってくれたかい?まぁ、物は試しだ。あまり気張らず会ってみてくれ」

本当に?!

っていうか、私が澤井さんを紹介してもらうなんて、このからくりがどういう先行きを示すのか全く想像もできない。

藤波専務は放心状態の私の肩をぽんぽんと叩くと、また自分の席に戻って行った。

亜紀が我がことのように嬉しそうに頬を紅潮させて「やったじゃん」と口パクで私に言う。

そんな亜紀に困った顔をして首をすくめてみせた。

澤井さんはこんな話が出てること知ってるのだろうか。

今更ながら澤井さん自体がそんなすごい人だということに緊張で震える

運ばれてきたデザートを前に、食べることも忘れて、お見合い話の衝撃に心が狼狽えていた。

大きく深呼吸する。


そんなうまくいくわけない。まだ正式に決まった訳じゃないし。

そんな御曹司と結婚できるほどうちは大し藤波専務も、ふと目に着いた私に冷やかし半分に声をかけただけだ。