「返事がないってことは、オッケーってことだね」

澤井さんはそう言って微笑むと、私の手首をそっと掴んでパーキングへ歩いて行った。

掴まれた手首に心臓があるみたいにドクドクと熱い。

これから澤井さんの車に乗せてもらって、家まで送ってもらうっていうこの急激な展開にまだ気持ちがついていかない。

まだ3回しか顔を合わせたことがないのに。しかも全部が偶然の遭遇で。

こんなドラマみたいな話、きっと誰も信じないし私も信じちゃいけない。

ただの、偶然だって思っておかなくちゃ。

自分に必死に言い聞かせながら、澤井さんが手を引く方へ必死についていった。

薄暗いパーキングに停まる一台の大きな車の助手席に乗せられる。

バタンと心地よい音を響かせて車の扉が閉まった。

澤井さんに自分の家の住所を告げると、車はゆっくりと走り出した。

赤信号で停車している時、澤井さんがふいに話し出した。

「実は今日、父が勝手に俺のお見合いのセッティングをしていたんだ。君も知っているように正月早々彼女と別れたばかりだし、実はそういうことが続いていてね。正直、今全く女性には興味がわかないんだ。しばらくは一人でいいかと思っていた矢先の縁談だった」

全く女性に興味がわかないんだ。

お見合いしていたっていう話よりもそこにひかっかってしまう。

その言葉は自分も僅かに含まれているような気がして、勝手に気持ちが凹んだ。

私なんか対象になる女性以前の問題なんだろうけど。

「でも、澤井さんもどうしてこんな場所に?この辺りは普通の住宅街ですよね」

街の光が車窓に流れていくのを眺めながら尋ねる。

「俺の思い出の場所があの駅の近くにあるんだ。時間があったから、ふと、頭によぎって立ち寄ってみた。結局その場所には行かず駅前のカフェでコーヒー飲んでたんだけどね」

そう言うと、澤井さんは口元を緩めて、私の方をちらっと見た。