嘘でしょう?

改札の明かりがその人を照らしていた。

思わず自分の目をこすってもう一度確かめてみる。やっぱり。

「澤井さん?」

「君とはいつも変なところで遭遇するよね。って、これも失言だったかな」

澤井さんは前髪を掻き上げながら、以前と少しも変わらない端整な顔で爽やかに笑っていた。

片方の手をズボンのポケットに入れたまま、私の方にゆっくりと近づいてくる。

そして、辺りを見回すとふざけた調子で続けた。

「こんな夜更けにまたマニアックな場所にいるね」

確かに。都心から随分離れた郊外の駅だし、特にこの駅周辺で特別なイベントがあったわけでもない。

軽くにらみながら言い返してみる。

「それは、澤井さんも」

返された彼は目を丸くして一瞬私を凝視するもすぐに吹き出した。

私もつられて笑ってしまう。

さっきまであんなにどんよりとした気持ちになっていたのに。

高嶋さんのことなんかいつの間にか頭から消えてしまっていた。

笑いながら彼がさりげなく言う。

「俺は、お見合いデートすっぽかして逃げてきた。」

「え?」

そんな話、こんなところでさりげなく言う話じゃないんじゃないの?

だけど・・・・・・。

「まさか、君も同じとか言うなよ」

「お恥ずかしながら」

「本当に?」

私は笑いながらコクンと頷いた。

「君とはどうもついてない時が重なるみたいだね。で、これからどうするの?」

「家に帰ります」

「電車で?」

「はい」

澤井さんは顎に手をやり少し考えてから言った。

「俺、駅前のパーキングに車停めてるんだ。よかったら送っていくよ」

澤井さんにとってはたわいもない普通の会話なんだろうけれど、私には今までこんな素敵な男性にこんな優しい言葉をかけてもらうのは初めてだった。遭遇したことのないシチュエーションに緊張したのか、鼓動は激しく脈打ってるのに体はかちんこちんに固まっている。