高嶋さんは何も言わず、車を走らせた。

しばらく行くと山の麓に街の光が見えてきた。こんな状況でこのまま家まで送ってもらうのはどう考えてもおかしいよね。

「あの、下の街のどこでもいいので降ろして下さい」

「構わないのかい?」

「はい、私も子どもじゃないので」

高嶋さんは鼻で笑った。

「この話はなかったってことでいい?」

「もちろんです」

街につき、高嶋さんは親切にも駅前で降ろしてくれた。

「ありがとうございました」

私は彼の顔を見ず頭を下げる。

「真琴さんって、意外と思いきったことを言うね。俺としたことが言葉を失ったよ」

「すみません」

「でも、そんな真琴さんの方が俺には魅力的だけどね」

そう言うと高嶋さんは助手席の扉を閉めた。

彼は軽く右手を挙げ、車は一気に加速して私の前から去っていった。

あんな風に思いの丈を一気に捲し立てた私が魅力的?

私の一番嫌いな自分なのに。

自分の気持ちは抑えていた方が何事もうまくいってきた。

だからよっぽどじゃないと言わないようにしてるのに。

高嶋さんの車が見えなくなると、急に力が抜けていく。

何やってんだろ。

これでしばらく結婚の話はなくなった。

父もきっと落ち込むんだろうなぁ。

だけど、あんな言い方、例え優秀な外科医だったとしても許せない。

これでよかったのよ。きっと。

私は気を取り直して駅の改札に向かった。

「谷浦さん?」

その時、背後から私を呼ぶ声が聞こえた。

その声は?

そんなはずは。

ゆっくりと顔を後ろに向けた。