「あ、すみません。お怪我はないですか?」

男性の声が背後に響く。

お怪我はないというか、もう既にお怪我中です。

心の中で軽くつっこみながら後ろにいるであろう男性の方を振り返った。

濃紺のセーターにジーパン。

この出で立ちは、私と同じくスキー客じゃない??

片方の手で小型のパソコンを抱え、もう片方の手は私に差し出されていた。

「松葉杖?」

置いてあった松葉杖に気付いた男性はパソコンをテーブルに置くと、背後から私の体をひょいと抱き起こした。

え?!

急な接触に動揺するも、どうしていいかわからずその温かい胸にもたれかかっている間に男性は横にあった松葉杖を手にとり私に持たせる。

あまりに一瞬の出来事に何も言えずどうすることもできず固まった。

男性にこんな風に体を無防備に預けるなんてこと、正直初めての経験だったから。

松葉杖を受け取り体勢を整えると、私はドキドキする胸を押さえながらその男性の顔を見上げた。

「大丈夫ですか?」

そう声をかける男性は・・・。

明るいサラサラの前髪がかかる切れ長の目、形のよい高い鼻、引き締まった唇。

そして、とても背が高くてスタイル抜群の男性だった。

お、王子様?

私がずっと思い描いていたようないわゆる王子様のような非の打ち所のない理想的な男性がそこに微笑んでいる。

呆然としている私を見ながら眉間に皺をよせ首を傾げる。

何か言わなくちゃ。

松葉杖で体勢を立て直すと、「ありがとうございます。大丈夫です」とうつむいて言った。

「ほんとに?」

男性は私の顔をのぞき込んだ。

綺麗な顔が一気に近づいたので、慌てて更に深くうつむき首をコクンと縦に振った。

はぁ。

つくづくこういう機会を目の前にして一歩も前に出れない性格が不憫になる。

しっかりと男性の心をキャッチできる女性なら、こういう時にこそ無駄にせず本領発揮するんだろうけど。

私は男性に頭を下げると、松葉杖を必死に動かしながら逃げるようにその場から立ち去った。