「多分そうだろうなぁとは思ってたんだけど、ここまでまっさらだとはね。キスすらしたことないんだ」

「え」

自分のバッグを胸にぎゅっと抱えた。

「俺も自分の奥さんにするなら、真っ白な相手の方が何かと都合がいいなとは思ってたけど、やっぱり面倒臭いね」

面倒臭い?

今しゃべってるのは、さっきまでデートしていた高嶋さん??

その豹変ぶりにただただショックで言葉を失う。

「全部1から教えなきゃなんない。しかもガードが堅すぎるんだよ、真琴さんは。そんなんじゃ、これから先も誰も相手にしてくれないよ」

な、なんなの!

真っ暗な夜の森。月明かりだけが唯一の光だった。

もともと暗いところが苦手だったから、体が硬直している。

「わ、私・・・・・・」

震える声で必死に言葉を探す。

「恋愛の経験はないけど、正直高嶋さんには全く惹かれませんでした。ずっと他の人のこと考えてました」

あー、言っちゃった。

「だから、今そう言われてホッとしてます。3回のデート、お付き合い下さってありがとうございました!」

「な?!」

いきなり私に捲し立てられた高嶋さんは明らかに動揺した表情で私を凝視していた。

饒舌な高嶋さんの僅かに震える口がくっと一文字に結ばれる。

「さようなら」

もうここには乗っていられないと思った私は車のドアに手をかけた。

その途端、高嶋さんがその手をぐっと押さえ込む。

「君もなやなか言うよね。気に入ったよ」

「離して下さい」

「とにかく、こんな場所で君を置いていって何かあったら俺の立場も何かとややこしいからね。家までは送るよ」

た、確かに。

高嶋さんの手は思いの他、すっと離れた。

私もそれにつられるように、頷いて座席に座り直す。