立ち上がった瞬間に私の手はまた高嶋さんに包まれた。

心の中に鈍い矢が刺さっている。

私の気持ちが高嶋さんには伝わってないまま、こうして手を繋いでいることに罪悪感を感じていた。

今日はとりわけ時間の経つのが遅い。

ホテル最上階の高級レストランで食事をしている間も、高嶋さんの表情も言葉も体をすーっと通り抜けていく。

まるでそこにいるのにいないみたいに。

食事が終わると、いつものように高嶋さんは自分の車で家まで送り届けるよと言ってくれた。

断りたかったけれど、3回目にして断るのはやっぱり気まずい。

こういうとき自分の気持ちをはっきり言えたなら、こんなにずるずる3回目のデートまで来ることはなかったはず。

父はすっかり私が高嶋さんを気に入って結婚に一直線だと思っているらしく、先週から上機嫌だった。

つくづく自分の性格が嫌になる。

助手席で揺られながら、高嶋さんに気付かれないようにため息をついた。

「真琴さん、少し寄り道してもいいかな」

高嶋さんが前を向いたまま尋ねた。

「今日はとても天気が良くて月がきれいだ。月が美しく映る湖畔がこの近くにあるんだけど見に行かない?」

「月が映る湖畔?」

「ああ、天気のいい日しか見れないらしい。その月を見た人は一つだけ願いが叶うらしいってもっぱらの噂だよ」

「行ってみたいです」

願いが叶うって、ただそれだけで私は頷いていた。

自分は何を願うのかって、そんなこと絶対高嶋さんには言えないけれど。

高嶋さんは笑顔で頷くと、車のスピードを上げた。