こんな時に澤井さんを思い出してしまうなんて不謹慎だと思いつつ、映画を観ている間もずっと澤井さんの切れ長の穏やかな目が頭から離れなかった。

どうしてるんだろう。

一ヶ月前、受付で再会して以来会うことはなかったし、もちろん偶然すれ違うこともなかった。

相変わらず忙しくしているんだろう。

寄ってくる女性をまた傷付けて、出会って別れてを繰り返してるのかな。

澤井さんにふさわしい女性って一体どんな人なんだろう。

澤井さんは本当に好きになった女性っているんだろうか。

あー、だめだめ。

今は高嶋さんとデート中なのに。

ようやく澤井さんのことが頭から離れたと思ったら、スクリーンにはエンドロールが流れていた。

嘘。

ほとんど観れてない。

ちらっと高嶋さんの方に視線を向けると、少しうつむいて目頭を押さえている。

「高嶋さん、大丈夫ですか?」

思わず声をかけると、私に顔を向けた高嶋さんの目は赤く潤んでいた。

え。

泣いてたの?

そんな感動する映画だったのに、私、ちっとも覚えてないし!

感動して泣いてる高嶋さんの横でケロッとした顔で「大丈夫ですか?」なんて。

普通反対だよね。

恋愛経験なくてもそれくらいはわかる。

「いい映画だった。真琴さんはどうだった?」

今、絶対聞かれたくない質問だった。

こういうときは下手に何も言わない方がいい。

私は少しだけ口元を緩めて黙ったまま頷いた。

場内が明るくなり、私は高嶋さんと席から立ち上がる。