思わず隣の誰かに見られてしやしないかって挙動不審になる。

両隣は会社員らしきおじさんと女子高生。

二人ともスマホに夢中で私がそんな風に焦ってる姿なんて気にも留めていない。

ちょっと安心して、澤井さんの名刺をまた手帳に挟んでバッグに直した。


その日の晩。

いいタイミングだか悪いタイミングだかわからないけれど、父にお見合い話があると切り出された。

これこそ、お見合いしろっていう運命?

澤井さんみたいな素敵な人と、少しでもすれ違えた奇跡を胸に手堅い人と結婚しろってこと?

時々、母が今生きていたらどう言うだろうって思う。

父とは違う判断やアドバイスをしてくれるのかもしれない。

地味で優柔不断な私は、いつも父に判断を丸投げで生きてきた。

それが最善の指針だって疑わずにきたけれど。

父いわく、お見合い相手は国立病院の外科医らしい。

実直で優秀で前途有望だと言っていた。

多分、そんな悪い話じゃないんだろう。

だけど・・・・・・。

澤井さんの名刺を取り出して見つめる。

私がもう少しかわいくて、自分に自信があって、勇気があったらこのアドレスに何か言葉を送れるのかな。

【もう一度会えませんか?】

みたいにね。

考えただけで顔が熱くなる。馬鹿だなぁって思いながらベッドから立ち上がる。

部屋の窓を開けると、冷たい空気が一気にもやもやしている私の気持ちを包んで取っ払ってくれた。

まだまだ寒い冬は続く。

春には、一体どんな花が咲くんだろう。

私にはまだ想像すらできなかった。