「やっぱり、スキーツアーで出会ってたんでしょう?ずるいなぁ!そういうのを抜け駆けっていうんだよ」

「抜け駆けもなにも。ちょっと転んだ時助けてもらっただけよ」

「じゃ、どうして名前まで知ってるの?」

亜紀もなかなか引き下がらない。

「私のセカンドバッグの刺繍を見られたからよ」

「あ、真琴が大事にしてるお母さんお手製の?」

「うん。私、セカンドバッグをロビーに置き忘れてきちゃってね、それをフロントに届けてくれたのが澤井さんだったの」

「それって」

亜紀は目を大きく見開いて私の肩を掴んで体ごと亜紀の正面に向けさせた。

「運命じゃない?」

でた。

運命信者。

「運命なんて簡単な言葉で片づけすぎなんだって。ただの通りすがりだって、言っちゃえば運命でしょう?運命の定義って実は広いのよ」

亜紀はぶんぶんと首を横に振った。

「そんなこと言ってるから彼氏できないんだよ。信じたものは救われるっていうでしょう?乗っかってみたら?」

「乗っかるって、そんな簡単な相手でもないよ」

私は苦笑しながら、また前を向いて途中になっていた茶碗を洗い始めた。

「まぁ確かに簡単な相手ではないかもね。だけど、このまま通りすがりにしちゃうにはもったいないなぁ」

「もったいないって思うなら、亜紀ががんばればいいじゃん」

そう言った後、心にもないことをよくも言えたもんだと我ながら感心する。

「がんばっちゃおうかなぁ?」

亜紀は意地悪な笑みを浮かべて私の顔をのぞき込む。

「じゃ、真琴、応戦してくれる?」

これまた心にもないことを言ってる亜紀の顔から目を逸らして笑った。