「俺はこの場所で、真琴とこれから先ずっと一緒にいたいと願う。心から愛する人とようやく出会えた。俺と結婚してほしい」

初めて愛した人に、結婚してほしいと言われている。

夢かもしれない。でも確かに彼はここにいる。

彼の存在を確かめたくてゆっくりと目を開けると、しっかりとその目を見つめ返した。

湖面に映る月はゆらゆらと微かに揺れていた。さざ波に月明かりが反射してキラキラしている静かな夜。

以前、この場所で月を見ながら澤井さんに会いたいと願った。そして、今彼と共に再びこの月を見ている。

「私も願い事しました」

彼の鼓動を感じたくてその胸にそっと手を当てる。

「澤井さんとずっと一緒にいれますように。こんな私だけどお嫁さんにして下さい」

彼の目が明るく見開いた。

「必ず幸せにすると誓う。君に出会えたことは運命なんかじゃない。奇跡だ」

そう言う彼の瞳には月が映って揺れていた。まるで湖面の月のように。

「澤井さんとの出会いは、私にとって運命を超えた先にありました」

「ん」

彼は優しい目で頷くと、そっと私の頬に手を添える。

そして柔らかく私の唇を塞いだ。

その時、バックの中でスマホが震えた。

そっと唇を離した澤井さんが「出ていいよ」と笑う。

こんないい雰囲気なのに一体誰だろう?
「ごめんなさい」と苦笑しながらスマホに出る。

『真琴!今どこにいる?何も連絡なしに出かけて心配するだろう』

父の声が耳をつんざく。思わずスマホを耳から離して澤井さんに顔を向け首をすくめた。

「お父さん?あ、そうそうメモ残すの忘れていたわ。実はね、今澤井さんと一緒なの」

『澤井・・・・・・って、お前、まさかニューヨークにいるのか?』

相変わらずな父に思わず吹き出す。

「違うよ。今朝日本に帰ってきた澤井さんと一緒にいるの」

『なんだ、驚かせるなよ』

父はホッとした様子で笑った。

澤井さんの顔を見上げると、彼は私の目をしっかりと見つめたまま頷く。

「今から澤井さんと一緒に帰るね。二人からお父さんに大事な話があるの」

『おいおい。なんだよいきなり。また驚かせるんじゃないだろうな』

父はふぅーとゆっくり息を吐くと続けた。

『わかった。二人を待ってるよ。気をつけてな』

「お父さん……ありがとう」

電話が切れると、澤井さんはすぐに私を抱きしめ「さっきの続き」と言って私の唇を優しく塞ぐ。

満月に祈りを捧げながら、私達は何度も優しいキスをした。



どこまでだって着いていこう。

あなたがそばにいる限り、私は私以上の自分になれる。

初めて恋したのがあなたでよかった。


温かい月明かりに包まれて、私達の乗った車は父の待つ家へスピードを上げていった。


・・・・・・THE END